ベジ栄養学

ベジタリアン・ヴィーガンのトップアスリートの栄養摂取状況を覗いてみよう!菜食に潜在するメリットが見える!

肉を食べないベジタリアンやヴィーガンアスリートのパフォーマンスが高い理由を探ろう!

はつみ顔管理栄養士 はつみ

バスケ選手

★ベジタリアン・ヴィーガンアスリートの栄養摂取状況

①エネルギー源となる栄養素の摂取状況

ベジタリアンやヴィーガンのアスリートのパフォーマンスについての最新のレビュー記事(コチラをクリック)についての続編です。
実際、ベジタリアン&ヴィーガンのトップアスリートの食生活を調べた結果、どういう栄養摂取状況だったのか、何がその高いパフォーマンスの理由なのかを更にひも解いてみましょう。ノンベジの人も、参考にになることがいろいろあります。(1)

「ご飯とたんぱく質源だけ食べていて、野菜は面倒だしサプリメントでビタミン取ってるので大丈夫です!」などと言っている人は、大丈夫どころではないということがわかる内容です。アスリートのような生活をしている人もしていない人も、細胞レベルでの健康管理をおろそかにして大丈夫なわけはありません!

ベジタリアンやヴィーガンの違い、それぞれにたくさんの種類があるので、知りたい人は過去の記事(←クリック)を参照ください

エネルギー源となる栄養素の摂取状況をまず解説します

炭水化物、糖質の摂取状況

糖質は、グリコーゲン(筋肉や肝臓に貯蔵されているエネルギー貯蔵物質)の再合成のためにアスリートにとって重要です。多くのベジタリアンは、糖質の必要量を満たすだけの高糖質食を食べています。瞬発系アスリートの糖質必要量は、3~5g/体重kg/日とされますが、このくらいの量は軽く満たしているベジタリアンが多いです。

また、持久系の種目のアスリートがグリコーゲンローディングを行う時の高糖質食の8~12g/体重kg/日も菜食によって簡単に満たすことができますベジタリアンは、糖質不足になりにくいのです。その結果、グリコーゲン再合成が効率よく行われています。

急に植物性食品に動物性食品のたんぱく質源を変えて食べ始めると、同じ重量を食べた場合、糖質が多すぎることすらあり得ます。
例えば、鶏肉のかわりに豆類を食べることにした場合、鶏肉にはほとんど含まれない糖質が豆類に含まれるので、含有するたんぱく質だけでなく糖質摂取量も把握する必要があるのです。

その上、エネルギーが過剰になってしまった場合、余剰分の糖質は体脂肪に変換されるので、体脂肪の増加によりパフォーマンスの低下が懸念される長距離走などの選手は注意が必要です。

たんぱく質源となる食品は、ベジタリアンとノンベジの人では違うので、全体としての食事計画を菜食を取り入れる時には食品重量などすべて見直す必要があるのを忘れないようにしましょう。
ざるそば

脂質の摂取

食事中の脂質は、グリコーゲンが枯渇したら長時間の運動のために使われる他、脂溶性ビタミンの吸収を助けます。アスリートも食事摂取基準の脂質エネルギー比20%以上というガイドラインを守るべきです。20%未満の脂質摂取だと、脂溶性のビタミンA、D、E、Kが欠乏しがちになる以外にも、必須脂肪酸(体内で合成できないので食事から摂取する必要があるリノール酸とα‐リノレン酸)が不足してしまいます。

ラクトオボベジタリアン(乳製品と卵は食べる菜食)とペスコベジタリアン(魚は食べるが肉類は食べない)は、n‐3系脂肪酸(ω‐3系脂肪酸ともいう)の摂取量は十分であることが多いです。しかし、厳格な菜食主義であるヴィーガンは、n‐3系脂肪酸のEPAの摂取量が非常に少ないことが報告されています。同じくn‐3系脂肪酸のα‐リノレン酸からEPAやDHAへの体内での変換は十分ではないとされますが、最新のリサーチによりヴィーガンもじゅうぶんα‐リノレン酸を摂取することにより、アスリートのEPA/DHAの必要量を満たすことができるとされています。

アマニ油やエゴマ油に多くα‐リノレン酸が含まれます。(食欲up間違いなしの常備菜:青シソのにんにくオイル付けのレシピはコチラ)

総合的に考えて、アスリートにとってじゅうぶんなエネルギー量の摂取は重要です。それが、植物性食品からであれ動物性食品からであれ、カロリー摂取量が足りていないと、体重減少だけではなくパフォーマンスの低下や回復の遅れ、骨量低下、慢性疲労などの問題が起きます。植物性食品をベースにした食事では、高食物繊維で重量当たり低カロリーの食品が多いためじゅうぶんな量のカロリー摂取が出来ないことがあり得ます。ただ、食事回数を増やしたり、エネルギー量の多い食品を選んだり、食物繊維が多くなりすぎないように気を付けることで、ベジタリアンもヴィーガンもエネルギー量の確保が可能です。

オリーブとオリーブ油

たんぱく質の摂取状況

ベジタリアンやヴィーガンアスリートのたんぱく質の摂取については、よく議論となります。加えて、スポーツ業界でサプリメントのプロテインは巨大な市場がとなっているのも事実です。
高いパフォーマンスを発揮しているアスリートのたんぱく質の必要量は、1.2~2.0g/体重kg/日です。最近の研究での推奨量は、競技の種類や目的によっては、1.6~2.2g/体重kg/日という数値も出回っています。この量は、摂取が難しい量ではありません。逆に日本人のアスリートも一般人も、過剰なくらいにたんぱく質を摂取している人がスポーツ業界ではよく見られます。

摂取のタイミングも大事です。運動後0~2時間以内に0.25~0.3g/体重kgのたんぱく質を摂取することで、筋肉の合成を促進すると言われます。1日に4回、0.4g/体重kgを取るというシンプルな方でも、たんぱく質の必要量を満たすことが出来ます。トップアスリートは、1日に何回も筋肉のトレーニングを行うので、1日に4回、0.4g/体重kgの方法の方が1日を通して筋合成を高めることになるかもしれません。

たんぱく質源が何であれ、摂取するたんぱく質は、筋合成を促すロイシンを含むBCAA(分枝アミノ酸)をたっぷり含有したものにするべきであるだけでなく、およそ10gの必須アミノ酸(不可欠アミノ酸)を含むことにより筋肉の合成が最大限効率よく行われます。

ベジタリアンアスリートとノンベジアスリートで、たんぱく質の必要量に違いがあるかどうかについては、ほとんど根拠となるデータがありません。しかし、植物性食品をベースにした食事を摂るアスリートは、十分な量の必須アミノ酸とロイシンが必要です。ロイシン(少なくとも2.5g)は、筋合成に関わるシステムを活性化させます。動物性食品は一般にロイシンが多く、乳製品の中のホエイ(乳清)も、ロイシンを多く含むのですが、大豆、豆類、玄米、じゃがいも、トウモロコシもロイシンを多く含みます。しかし、含有量は様々です。20gのトウモロコシに2.7gのロイシンが含まれるのですが、この量を他の植物性食品で摂るなら、じゃがいも33g、玄米37g、豆類38g、大豆40gを食べることになります。菜食のアスリートは、ロイシンと必須アミノ酸摂取のため、より多くの種類の食品からたんぱく質を取るようにすると良いです。日本人は、大豆製品をよく食べている人が多いので、ロイシンの摂取はそんなに難しいことではありません。

植物性食品がベースの食事で、ロイシン、メチオニン、リシンが不足している食事を摂っている人は、筋肉合成能力が低くなる可能性があります。菜食で、筋肉合成率が低い人のもう一つの原因としてあり得るのは、消化と吸収率の低さです。しかし、よくある食事の組みあわせとして米と豆、豆とナッツや種実類、ピーナッツバターのサンドイッチなどで、アミノ酸の補足効果があり、リシンやメチオニンが多く含まれる豆類によりリシンが少ない穀類の弱点を補うことができます。更なる研究結果が指摘していることの一つに、植物食品がベースの食事は人間が必要としているアミノ酸を供給することができるとされ、たんぱく質の欠乏は大袈裟に指摘され過ぎている現状があるとされます。更に、1食の中で食品を組み合わせなくても、1日の中で総合的に十分な必須アミノ酸を摂取できれば問題ないことがわかっています。菜食のアスリートが、柔軟に献立を考えられることになります。

最近のリサーチで、乳製品のホエイプロテイン(乳清)25gと豆類から同量のたんぱく質を1日に2回ずつ摂取した集団とで二重盲検で比較したところ、筋力にも筋肉厚にも違いが無かったという結果がありました。

また、違うリサーチで、24gのホエイと豆のたんぱく質のサプリメントを高強度の運動をした日の運動前と後で摂った集団を8週間追跡したところ、身体組成、筋肉厚、筋力(大腿の最大筋量など)、パフォーマンス(ベンチマークワークアウト)に差は無かったということです。

日本人が良く食べている大豆製品と言えば、豆腐や納豆、油揚げなどではないでしょうか?大豆の煮豆を中心に食べている人は少ないです。
豆腐はおからを除いた豆乳を固めたもので、離乳食に使えるほど消化の良い食品です。納豆は、豆がそのままの形ですが納豆菌による発酵食品なので、消化しやすい構造になっているだけでなく骨を強くしてくれるビタミンKなども増えています。豆腐をベースに作ったのが油揚げやがんもどきです。消化吸収率が動物性食品より低いと言っても、ほんの数パーセント低いかどうか小さい差です。
大豆と豆腐

②微量栄養素の摂取状況(ビタミン、ミネラル、その他)

菜食の良い点と問題となり得ること、微量栄養素についてを含めて一覧表でまとめます!

不足しやすいものに、鉄、亜鉛、カルシウム、ビタミンB12 、ヨウ素、ビタミンDがあります。
★一方、摂取量が多くなるものに葉酸、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンE、ビタミンK、カロテノイド類、カリウム、マグネシウムがあります。

これらの傾向が、ありました。
アスリートのパフォーマンスにおいてどういう影響があるかを含め、菜食だと多くなりがちな栄養素と逆に少なくなりがちな栄養素をまとめた表を見てみてください。

 

 

菜食で摂取が少なくなる
可能性がある栄養素
菜食で摂取量が多くなる
可能性がある栄養素
炭水化物 多くなるので、グリコーゲン貯蔵量が増加しやすい
脂質少ない傾向。特にn‐3系脂肪酸のEPAやDHAがヴィーガンでは低摂取傾向 
たんぱく質少ない傾向。特にロイシンやその他の必須アミノ酸 
ビタミンAやカロテノイド1つの研究で少ない傾向複数の研究で多い傾向
ビタミンB2少ない傾向 
葉酸 多い傾向
ビタミンB12少ない傾向。ヴィーガンでは、サプリメントが必要。ラクトオボベジタリアンでは十分摂取できている
ビタミンC 多い傾向
ビタミンE 多い傾向
ビタミンK 多い傾向
マグネシウム 多い傾向で、パフォーマンスの向上の可能性あり
カリウム 多い傾向で、パフォーマンスの向上の可能性あり
少ない傾向だが、非ヘム鉄はビタミンCで吸収率上昇。 
亜鉛少ない傾向だが、非ヘム鉄はビタミンCで吸収率上昇。 
カルシウム少ない傾向。シュウ酸を多く含む葉野菜は低吸収率。 
ヨウ素少ない傾向。ヨウ素が少ない土地ではヨウ素のサプリが必要。※ 
食物繊維 多い傾向
抗酸化物質 多い傾向で酸化ストレスの軽減が出来る可能性あり
フィトケミカル 多い傾向で、抗炎症が出来る可能性あり
硝酸塩 多い傾向で、パフォーマンスの向上の可能性あり
イソフラボン(大豆の) 多い傾向で、パフォーマンスの向上の可能性あり
クレアチン少ない傾向で高強度の運動ではサプリメントの利用を考慮してもよい 
βアラニン少ない傾向で、パワー系のスポーツではサプリメントの利用を考慮してもよい 
カルノシン少ない傾向で、パワー系のスポーツではサプリメントの利用を考慮してもよい 
総エネルギー摂取量高食物繊維で栄養密度の低い食事では、少ない傾向 

※日本は高ヨウ素土壌であり、海藻を食べるので心配いらない

★まとめ

結論としては、アスリートがベジタリアン食を選ぶチョイスがあっても大丈夫どころか、止める理由は無いってことね?

そうなんです。
トップアスリートになりたいなら、菜食ではダメだと言う人もいるのですが、ベジタリアン・ヴィーガン食の特徴をよく理解した上で、献立を立てるなら、必要なエネルギー量、たんぱく質(必須アミノ酸やロイシンなども)、微量栄養素をじゅうぶん摂取することは可能なのだということがわかりました。そればかりか、健康だけでなくパフォーマンスにおいてもノンベジ食と比べて利点があるのもわかってきました。

ベジタリアン・ヴィーガンアスリートは、正しい食事管理をすることで、栄養素の必要量を植物性食品をベースにした食事ですべて摂取することは可能であり、アスリートに必要な有酸素運動能力も筋力系の瞬発力も同等に高めることが可能なのです!そして、植物性食品中心に食べることのメリットは、サプリメントで補えないものだと表を見てもわかると思います。植物性食品に含まれる抗酸化物質であるフィトケミカルなどは、どの食品にどのくらい含まれていてどう良いかなど未解明のものも多いので、サプリメントで摂れるものばかりではありません。

ビタミンやミネラルも、植物性食品をベースにした食事だと多く摂取しやすいものと不足しやすいものがあると知っていれば、これからベジタリアンになろうとしているアスリートの人も安心ですね!

実際にトップアスリートにベジタリアン・ヴィーガンはたくさんいます。
日経新聞の記事でも取り上げられていましたが、我が子を含むZ世代と言われる若い人たちは環境問題に消極的な団体や会社には属したくないと思っている人が多いと言われます。Z世代の環境意識が、それ以外の世代の人より高い人が多いのです。その世代である我が息子もそのように育ちました。(そのように育てたとも言えますが…)

若いアスリートに接していると、確かに価値観が変わってきているのを感じます。時代の流れで、肉を朝から大量に食べて筋量upなどという科学的根拠の無い食べ方はカッコ悪いと感じるようになっていくのかもしれません。

★大豆ミートは、スーパーでよく見かけるメーカーのものより低脂肪で安価なこの商品を愛用しています。高野豆腐と同じで、大豆はもともと脂質を多く含むので、保管中に油が酸化します。低脂肪のこの商品は、脂肪の酸化による変な匂いが発生しません!!

★完全にヴィーガンだと数年かけてビタミンB12の欠乏が起きます。サプリメントで補いましょう。(過去の記事はコチラ)

 

(1)Kenneth Vitale1* and Shawn Hueglin. Update on vegetarian and vegan athletes: a review.J  Phys Fitness Sports Med, 10 (1): 1-11 (2021)

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